車両内のマナーを言い立てる人たちは、要するに、「定型的な規格にハマれない人間」に苛立っているのだと思う。 たとえば、ヘッドフォンステレオから漏れるチャカチャカ音をうるさがる人たちは、騒音そのものに不快を感じているのではない。彼らは、本来なら小さく縮こまって過ごすべき通勤列車の中で、ノリノリで音楽を聴いている若いヤツのその快適そうな状態を憎んでいる。彼らからすれば、音楽を聴いてゴキゲンになることや、周囲の目を気にせず化粧に専念することは、公共の場所にプライベートを持ち込む逸脱行為なのであって、だからこそ彼らは通勤電車という人間が荷物になり変わって運搬されなければならない閉鎖空間の中でくつろぐ人間を嫌うのである。 おそらく、日本人のうちの半分ぐらいは、リラックスした人間を憎んでいる。 誰もが自分たちのように、びくびくして、周囲に気を使って、神経をすり減らしているべきだと考えている……というのは